ベルリンに住み始めてから、いつか連絡しなくてはと思っていた人がいる。その人は、壁が崩れる前後、昭和と平成の狭間でベルリンを訪れていた。好奇心旺盛なキラキラと光る目で、東ベルリンの街とそこに住む人たちの素朴で力強い魅力を、まだパスポートさえ持っていなかった高校生の私に語ってくれた。 その人とは、高校1年のクラス担任。教師という人種を毛嫌いしていた私は、初日からその担任に対しても、「騙されないぞ」という反骨心を丸出しにしていた。でも彼は、どういう訳か、そんな尖った10代の私を買い被った。「自分は平凡な人間だ」と常々思っていた私の背中を、ほんの時々、でもタイミングよく押してくれた。実力以上のことを試す勇気をもらった。いつか、海の向こうへ行きいたいという夢が、もしかしたら実現できるかもしれないと思い始めたのもこの頃だったと思う。日本を飛び出した今の自分があるのは、ある意味、この先生との出会いがあったからだと言える。繰り返すけれど、私は教師という人種がお世辞にも好きではない。でも、この先生は「恩師」だと呼べる。そして、多感な時期に出会い、影響を与えてくれた大人の一人だ。 私にとってこんなに重要な人なのに、なかなか書けなかった手紙は、ようやく数年前に下書きが済んだものの、そこから少なくとも5年間は、机の隅で他の書類に埋もれながら清書される日を待っていた。不幸中の幸いか、コロナがもたらしたたくさんの時間に後押しされて、今年ようやくポストに投函された。高校の名簿にある住所を頼りに、無事届くことを祈って…。 Since I started living in Berlin, I have had a person in mind, whom I though I should write a letter to. This person had visited Berlin before and after the fall of the wall. With his wide eyes of curiosity, he […]
All posts tagged “People”
美しい人
ブカレスト市街の路線バスで、美しい女性に出会った。この人もきっと、ルーマニアの激動の歴史を体験したのだろうと勝手に想像しながら、その清楚な佇まいに見入っていた。普段なら、こっそり写真に収めて、、、と思うところだが、思い切って声をかけた。笑顔でカメラに向かう彼女、慌ててシャッターを切る私。 偶然、私たちは同じ停留所で降りた。彼女は、しわくちゃの笑顔で私の手をぎゅっーと握り、感極まって、力いっぱい私の肩を抱き寄せた。その状態で、私たちはしばらく通りを一緒に歩いた。言葉はまったく通じない。 言葉がわからなくても通じ合える時がある。できる限りのすべてを使って、「自分をさらけ出すコミュニケーション方法」が、異国の土地にいる楽しさが、私が旅を大好きな理由だった。でも、ドイツ生活が長くなり、通じないことが不便で不都合な場合が増えて、この感覚をすっかり忘れていたなぁ…。そんなことを一瞬の間に頭に巡らせながら、とても嬉しそうにルーマニア語で話しかけてくる彼女の顔をじっと見ていた。 I met a beautiful lady In a local bus in Bucharest. While I was taken by her elegant and sweet aura, I imagined her life which surely went through the turbulent history of Romania, of course, without knowing her personally. I often […]
嬉しい人々
工事現場で見かけたこの男衆。最初はやや鋭い視線で私を見ていたが、写真を撮りたいと話しかけると笑顔になり、ネクタイを締め直さんとばかりにちょっとかしこまった風にカメラに向かった。「俺、もう日本で有名人だね」と、片言の英語で言うと、クシャと笑った。 ブカレストの人は優しかった。東欧の冷たいイメージが先入観という箱にすっぽりはまっていたので、一見険しく見える彼らの表情が、素朴な笑顔でくずれるのを見て正直拍子抜けした。この旅では、久しぶりに意識的に人を撮った。 旅が好きだ。知らないことを、知らないと言えて、知りたいことを探求できるから。生活することで得る知識や経験も素敵だけど、未知の文化に飛び込む感覚は、格別に刺激的だ。 These gentlemen I saw at a construction site were looking rough at first, but as soon as I talked to them asking that I wanted to take a picture, they smiled very gently. As if they were trying to fix their tie […]